主演女優のたくらみ
まだ自分自身に大いに迷ったり、躓いたりしていた頃のこと…。ある友人が私のことを〈映画を地で生きてるような子〉と人に話しているのを知った。ごく若い頃、旅先で死にかけたりしたから? 知らない土地にいきなり移り住んだりするから? …悪くない。もともと映画や小説が大好きだから、この表現は私の自尊心を気持ちよくくすぐった。すっかり気に入って、それからことあるごとに自分の人生を〈ある映画〉として眺めるようになり…。このゲームに私、どれくらい助けられたことでしょう! 気持ちがふさいでしまうようなときもちょっと問題から脇に逸れ煙草をふかし〈これは映画のワンシーン…〉、そうつぶやいてみる。すると…目の前の風景はゆっくりと色味を増し、さっきまでしょぼくれていた私はにわかヒロインになり替わる。さぁ、私は私の物語を生きるのよ。次第に人生への愛着、生きているよろこびがじわり、温度を取り戻してゆくのがわかります。つまるところ、私は自分の生きている、この映画が大好きなのです。
先日ベッドに入って寝付くまでの間、ふと自分に問うてみた。
〈もし自分の人生を一遍の映画とするなら、なんてタイトルにする? ストーリーさえ自由に書き換えられるなら、どんな風に書き換えるだろう…〉
物語は起伏があった方が面白い。ずーっとしあわせ、何の問題も起こらない物語なんて(それはそれで心あたたまるのだけれど)、主演女優としてはちょっと物足りない。手応えに欠けるのよ…。そうねぇ、やっぱりあのしんどかった時間も、こっちのすり傷もぜんぶ残しておこう。第一、これらの経験を通じて理解できたこともいっぱいあるし…などとつらつら考えていて、どきりとした。あ…! 同じことを私、生まれる前にもやってきた…
生まれる前、自分がどこにいたのかなんて覚えてません。それでもようやく手に入れた〈地球行きチケット〉をぎゅっと右手に握り締め、やったやったと飛び跳ねてよろこんだだろう〈わたし〉は容易に想像できます。旅立ちの日を今か今かと待ちわびながら、旅の大筋を計画した、その胸の高鳴りも。ここで誰に出会って、こんな経験をして…。ドラマティックな展開が大好きな私は確かにあの時、いくつか〈旅の難所〉も予定に組み込んだはず。もちろん、予定は未定。実際の旅と同じで大まかなプランはあっても随時、変更可能、オプションあり。それでも何度も何度も修正を重ね、ようやく完成させたストーリー、そのドラマを今、生きている…。
〈大丈夫。ここを乗り越えたら、もっと美しい光景に出会えるよ―〉
生きていく中で出会うさまざまな躓きさえ、生まれる前の〈わたし〉がたくさんの思いを込めて用意した自分自身への贈り物、わざわざ仕掛けた謎解きに過ぎなかったんじゃ…。いつか私が〈わたし〉にめぐり会うための、そのヒントとして―。ああ、ああ、そうか、そうなの…とろけるように眠りに落ちた。
…とはいえ、賢いみなさんはもうお気づきですね!? 〈これね、ぜんぶ私が自分で企画した物語なのよ!〉いくらこの瞬間、うっとりそう述べてみたところで、三つ子の魂百まで。今後も私は必要に応じてふてくされ、悪態ついて、願わくばそれ以上に笑いつつ、旅を続ける予定です。旅は道連れ、世は情け。共演者のみなさん、私の映画に参加してくれてありがとう。あなたの映画に参加させてくれてありがとう!一緒にこの映画、もっともっと楽しもう。
0コメント