ひさしぶりに働いてみる
ひと月くらい前からバイトをはじめました。
約1年間、のらりくらりと続けた念願の〈主婦〉生活。とはいえ、お掃除は丸ごとローラン任せ、子供はいない…で、私のやることといえばごはんづくりくらい。要は〈主婦〉というのも憚られるような自堕落生活を送っていたのでございます。そんなこんなで1年、いや2年近く? たら~りたらりと暮らしてみて、生来の怠け者につき、もちろんこれはこれでよろしいのだけれど…、けれど、なんでしょう。なんだかグズグズ煮詰まってきたのです。
これが勝手知ったる日本なら(結婚しても同じ町に住み続ける場合)、もとより友人はいるし、住み慣れた町でやった!といわんばかり、すんなりお気楽主婦生活に治まったのかもしれない。けれどゼロからはじめたParis生活、引きこもるにはちょっと早すぎたよう。どうせ引きこもるんなら、もっと世界を広げてから引きこもろう! さらには夫ローランがいい人過ぎて、私、どうも悪妻になりきれない(よく言うよ笑)〈せめて自分のお小遣いくらい、自分で稼ぎたいわ〉と、筋金入りの怠け者にしては中々しおらしいことを考えるようになったのでございます。とはいえ、ご立派なフェミニスト精神に目覚めたというよりは、どちらかというと〈いざ〉というとき(といっても想定してるのは馬鹿騒ぎの類)、気兼ねなく動きたいがためのささやかな独立心(笑)
絵を描きながら、週3くらいの仕事。さらには神経使うのイヤだし、ちょっと日本語も喋りたいし、経験ないけど飲食店なんかどう??肩の凝らない程度の日系のお店、近所にないかな~と探したら、即見つかりました!!自宅から歩いて15分のからあげ屋さん(笑)まさかParisに来て、からあげ揚げることになるなんて思いもしなかったけれど、なんとかかんとか一か月が過ぎました。週3日、お昼過ぎには終わる、気を使わない仕事。慣れてみるとこれが本当にいい〈メリハリ〉で、久々に〈週末〉のありがたさを味わっています。
で、昨日はそのお店の歓送迎会でした。日本人街にある、もう一店舗に集まって昼間からだらだら。
〈夏に辞めてった中にひとり、フランス人のミュージシャンがいるんだよ、奥さん日本人でね、音楽業がうまく回りだすようになって、めでたく辞めてったってわけ…〉
そんな話をなんとなく聞いてはいましたが、ご本人とこの日、はじめましてで、何となく意気投合。べらべらお喋りしてるうちに、なんと、えらいご近所さんだということが判明!
〈ねぇミオはさぁ、ものの好みがはっきりしてる人でしょう? 自分のセンスを大事にしてるでしょ、君も? たとえばライブなんかやる時にもさ、僕は音楽だけやればいいとは思わないんだ。演出って大事だよ。だってみんなを見てると―。あ、こんな言い方、ちょっと傲慢だけど…!〉
〈私も傲慢な人間だから、ご心配なく!音楽はさ、想像するに、特にライヴだと、その場の空気―箱だったり、その日のお客さんのノリだったりに影響されて触発されて―。生きものみたいに変化する部分があるでしょう?絵っていうのにはそれがないからね。ひとりでコツコツ描くのも、もちろん嫌いじゃないし好きなんだけど…でももっと自分の中のコントロールできない部分をそのまんま引っ張り出したいって気分が今は強くて…そんなわけで私、今、絵の方低迷中なのよ(笑)〉
〈もちろん音楽にも充分な準備期間があった上で、その日だけ、その時だけの演奏ってものが生まれたりするわけだけど。いいたいこと、わかるよ。絵とはたぶん表現の出口が違うよね?ミオが新しいスタイルに挑戦したいってのもわかるし…。僕も10年音楽やってきて、途中いろんな種類の音楽に影響されたよ。でも結局、基本のスタイル、僕の音楽の根幹は変わってないと思う…。描けない時期があるとしても、絵はやっぱり君のパッションでしょう?〉
〈パッションねぇ…私、案外パッションと呼べるほどのものを持っていないのかも。好きなもの、好奇心をくすぐられるものはいつもいろいろあって、だけど一点に中々集中しきらないっていうか…。あ、でも必ずしもパッションありきじゃないよね? 描いていこうという意志もパッションと同じくらい大事よね、たぶん〉
帰り道、表を歩きながら、メトロの中で。思春期みたいな終わらない会話をほろ酔いのままつらつらと続け、ふわふわとうれしくなった。良かったら、来週のライヴにおいでよ、よろこんで。今度はそれぞれのパートナーも含めて4人で飲もうと笑いながら、手を振った。少しずつ広がっていく世界の真ん中で深呼吸ひとつして、いとしいローランの元へと私は階段を駆けあがった。
0コメント