真夜中の会話、なめくじのワルツ
ちょっと長めの週末を某地方で過ごしてきました。
早めのヴァカンス!?と思いきや、今回はほぼ離婚確定、あとは時間の問題―という友人夫婦宅に滞在、ふたりの話を聞くためのちょっと気の重い訪問…のハズでした。まだ幼い子供もいることだし、いつかお別れの日が来るにしろ、なるべく穏やかにきちんと話し合って―。どことなくよそよそしいディナーを終えて、旦那さんにそれとなく語りかけてみます。ごくフランクにさり気なく、子供のことから話をふってみると…。旦那さんの口からぽろぽろ こぼれ出る思い。隣りでじっと耳を傾ける妻。阿吽の呼吸で、ローランが子供たちを連れ、おもちゃの方へ移動。
〈ふたりの話をきいてあげて…〉
〈任せて〉
ローランと目くばせし、私は夫婦に向かい合います。日頃、滅多に胸のうちを明かさないという旦那さんが、その夜は夫婦間のこと、子供の教育、家族との付き合い方について、気づけばずいぶんと長く、それは気さくに話してくれて…。しかも、彼にとっての〈問題〉は、どれもまだ努力のしようがあるものばかり!〈ああ、そんな小さなすれ違いが重なっていったのね…〉隣りで聞いている妻Yの目が、驚きと安堵に大きく揺れています。気づけば旦那さん自ら、
「第一、僕ら、今も一緒に暮らしてるんだし。家族なんだし…」
すやすやソファで寝息を立てる子供たちを見て、ほっとため息をつきました…。まだ、大丈夫かもしれない…。
次の朝、仕事へ向かう旦那さんが一年ぶりにキスしてくれたと、キツネにつままれたような妻 Y。ふたりの絆をしっかり結びなおすにはこれからも努力が必要だけど、とりあえずは互いの思いに触れられて、もう一度向かい合いなおすきっかけができて、本当によかったね。がんばるんだよ、Y。すっかり肩の荷軽く、ローランとふたりパリに戻ってきました。なんだかな。気づけば私、昔からこんなことばっかりやってるなぁ(笑)
今回訪れたY夫婦の住む町は村といっていいくらい小さく、ちょっと歩けば一面の麦畑!風に揺れてさわさわ歌う麦の穂、その真ん中のあぜ道を歩いていると、途中ぽつんとぽつんとお地蔵様のごとく、イエス様の石像が。まるで西洋版トトロの世界に、しばしうっとり。ちいさな女の子の手を引き、青い青い空を仰いでスキップする。でたらめの歌を歌う。〈ね、あれ見て!〉赤土色の肌に黒い触角の大きななめくじが、ゆったりとあぜ道を横切ってゆく。しゃがみ込んで、その優雅なワルツをふたり、じっと眺める。柔らかな草の穂で波打つ背中を撫でてみる。ああ、こんな風に視線を落として世界を眺めるのって、どれくらいぶりだろう…??虫の声、風の音、小鳥のさえずり…。こんなにも静かでなーんにもなくって、なーんにもないがゆえに胸がいっぱいになるなんて。ああ、ああ、ああ…。お鍋の中のシチューのごとく、頭の中心がほろほろと煮崩れてゆく。あたたかく、やわらかく溶けてゆく、正体もなく…。ほわんほわん。
パリへ戻る列車の中、窓の向こうに遠ざかってゆく羊たち、緑の中の白い点々を眺めながら、ぼんやり考えました。どうやったら今のこの気持ち、な~んでもなくって、その〈な~んでもない〉ことがたまらなく心地よく思える、この伸びやかな気持ち、からだの感覚をずっと保っていられるんだろう??本当はねぇ、もっともっと何にもしたくない、何者にもなりたくないのかもしれないなぁ、私…。絵だって本当に描きたいのかどうか、妖しいもんだ。ただただじーっと、ぼんやり座っていたいだけなのかもしれないよ? だけどねぇ、数日したらきっと飽きるよ。やっぱり何かしたい!って、畑の真ん中で途方に暮れるんじゃないのかな…??そんなことをつらつら考えながら、パリに着いたら、途端にいろとりどりの人がわっと溢れ返って―。さ、また日常が始まるよ、と息を吐く。ね、どっちを向いて生きようか、私??
0コメント