ソバとばなな、大根と韮
「ソバ」
就寝前、隣でローランがつぶやいた。
図書館で借りてきた吉本ばななを読んでいたのだ。
お蕎麦を食べるシーンらしい。
「お蕎麦、食べたいの? 乾麺があるから、明日つくってあげようか?」
うれしそうなローランを眺めて、ふと思った。
恋人、友人、家族―、
それから旅、映画、本、絵…
これまでわたしなりに愛してきたものはいっぱいあった。
だけど、目の前のこの人がわたしの「愛」の集大成なんだなぁ…。
世話女房ならぬ、世話夫のローラン。
わたしと違い、決して権利など主張せず(笑)、
義務など押しつけず、あれこれと良くしてくれるこの人を、
残りの時間ぜんぶかけてゆっくり大切にしていきたい。
それさえできればいい。
それさえできれば、あとはわたしの人生、良しとしよう。
出来のよろしくないわたしのこと、
きっと神さまもそれで片目をつぶってくれるはず…、
そんなことを思いながら眠りについた。
夜が明けると雨の木曜日。
8月のパリは空っぽで気持ちがいい。
パリジャンが消えた路地は広々と静かで、思わず深呼吸したくなる。
ちょっと涼しいから、あったかい天ぷら蕎麦もいいな…と思いつつ、
夏はサラダだけで充分!というほど暑がりのローランにはやっぱりざる蕎麦か?
いやいや、間をとってつけ麺にしよう。
シイタケでお出汁をとって、豚肉もあったな…などと考えていると、
どうしてもおつゆに大根おろしを入れたくなって、
雨の中15分ほど歩いて中華街へ。
大根にニラ、絹ごし豆腐を購入する。
近くに中華街があって本当によかった。
久しぶりのニラの匂いを嗅ぎながら、
週末は餃子もいいし、崩し豆腐とニラのスープも美味しそう…などと
食べ物のことばかり考えているうち、いつのまにか日が差してきた。
0コメント