可愛い奴め。

仕事が終わって帰宅し、部屋着に着替えた夫がソファの上、そろそろと忍び寄る。「ん、んんんー」甘ったれて鼻を鳴らし、すり寄って来る。

「うちはいいなぁ…」

むかし、実家で飼っていた黒ラブのノアちゃんを思い出す。ノアも甘えたいとき、うれしいとき、よくこうやって人のお腹に顔を押しつけ、くんくん鳴いてたなぁ…。つや光りするあの黒い毛むくじゃらの代わりに、やはりつや光りする愛しき禿げ頭を撫でさすり、私は思う。可愛い奴め。

フランス語コースで知り合った友人に韓国人のJがいる。パリの弟と呼んでいるが、実際には弟よりも息子に近い年齢である。このJがまた素直で、肩の力が抜けている。一度学生保険の手続きにつき合ったことがあるが、当初、ままならないフランス語ながら、臆することなく担当者と話すJを見て感心した。私だったら、ちょっと焦ったり気まずく感じたりしかねないなぁ…。わからない単語が出てきても、Jはいたってのびやか。もう一度、いってくれますか?と、にこりと笑う。担当者も微笑む。誰に何に対したって、いたって素直。幾度かは、お酒の席でうるうると目に涙をためて抗議された。

「それ以上、やさしくしないで。それ以上やさしくされたら、ボク泣いちゃう…!」

精神が女子、なんである。お酒の力ももちろんあるが、ちょっとしたことをうれしいと思う気持ち、そのよろこびに非常にオープンなのね。そんなJを見ていて、やっぱり思う。可愛い奴め。

子を育てる人はよくそんなシーンに出くわすのだろう。よろこぶ我が子を見て、目を細める。そんなによろこんでくれるなら、またこんな機会をつくろうね。

うれしくなるようなことを誰かにしてもらうのは、もちろんうれしい。自分のしたことで誰かがよろこんでくれるのもまた、とてもうれしい。可愛い奴らを見ていて、はたと思った。もしかしたら神さまも、同じ気持ちなのかもしれないな。


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