現代アートと怒れる女

「ちょっと都会の空気を吸っておこうよ…!」

と、いたずらっぽく笑うローラン。土曜日、お昼から某・現代アートミュージアムへ連れ立つ。月末から2週間ばかり、南仏の養父宅滞在につき、その前に美術館でも…ってね。
 いえいえ、〈南仏〉〈田舎〉というキーワードに騙されちゃあいけないよ(笑)これがまた、なんとも半端な田舎なんである。緑いっぱい、憧れのスローライフ!!というほどの田舎ではさらさらなく、確かに一軒一軒の敷地の広さは〈地方ならでは〉なんだけど、…普通に住宅が立ち並んでるのサ。しばらく歩けば、ちょっとした山のお散歩コースがないわけでもない…けれど、それにしたって、嗚呼、雄大な自然!ってほどじゃあ、ない。そのくせちょっと大きめのスーパー、マルシェに行きたかったら、やっぱり車が必要!みたいな。ちなみに80前のお義父さんひとりなので、WIFIもなし。というわけで、今回も私たちは本、スケッチブックなどなど、各自退屈しのぎグッズを持参の予定。さらには滞在中、料理も大事な〈暇つぶし〉のひとつになるので、出発前から

ローラン「今回はタルト焼いてみようかな~」

わたし「私はアジアンの調味料持ってこ~」

 などと、計画に余念がない。と、まあ、南仏の滞在については、また機会があれば書くこととして…。話は変わって、昨日の現代アートで思ったこと。今更だけど、ちょっと聞いて!つき合って!(笑)

 たとえば、ね。限りなく奈良美智を彷彿とさせる、女の子像のキャプション、作者のことば。

造形という作業が、私に精神と肉体、その矛盾をコントロールすることを可能にしてくれるのです。この少女はそれら境界線を体現しており…云々。

 たとえば、ね。モンスターっぽい複数のペンデッサン。ヘタウマというのでも、味がある、とも微妙に違う…。なんというか、雑?!!殴り書きっぽいイラスト群のキャプション。

もし、世界が異なる歴史を辿っていたら?今日私たちは違う価値観で消費し、違う物語を歩んでいたはず。私たちの既成概念に疑問を投げつけるモンスターたち。

 他にも使い古しのマットレス、電気スタンド―といった粗大ごみの類を並べただけで〈環境保全問題〉を訴えているという作品…などなど、こういうのを立て続けに何本も見ていると、終いに…

「…ええ加減にせんか~い!!」

 ああ、大人気ない。ちゃぶ台あったら、ひっくり返したいくらい。なんかこう、沸々と、胸のうちに湧き上がるものがあるのでございます。みなさんに置かれては、そんなことないのでしょうか…?? も~さ~、もちろん全部が全部、正統派な必要ないし。アートでも芸術でも、はたまた広告でも、手遊びでも、要は面白いものは面白いよね、いいものはいいよね、それだけで良いんじゃないの? 無理に下手な能書き垂れなくたってさ。普通に美しかったり、面白かったり、奇妙だったり、ドキドキしたり。それでいいじゃん!!大体、いってることが薄いんだよ、青いんだよ。青年の主張!??そもそも〈コンセプト〉がないとありがたがれないなんて、表現と呼べる??自由に解釈させてよ~~、ガオ~!!と、毎度のことながら、ちいさな炎を吹いてしまうのです。

「まぁまぁ、お気を静めて…!」

 すかさず、横からニヤニヤ取りなすローラン、というワンパターン(笑)。(注:もちろん、現代アートの中でも好きな作品はあります!ちなみにいいなと思う作品は、コンセプトも解説もいたってシンプル、作品ありき。〈ん??〉な作品に限って大仰な解説で、毎度辟易する懲りない私…!じゃあ読むな。ハイ、漏れなく読んでるわけじゃありません!念のため。)
 ローランは基本、私と同じ考え方なんだけど、私が〈はぁっ!?〉となるところを、〈よく言うよ~!〉と笑ってしまえるタイプで、そういう笑いを含めての現代アート好き(ちなみにこのミュージアムの年間会員。)
 で、美術館をうろうろしながら私、ふと思った。この〈よういいますわ〉的コンセプトの数々、なんか調子のいい男みたいじゃない?って。実態がないというのかしら。ねぇ、ちょっと想像してみてよ。たとえば薄暗いバーのカウンターで40男が…〈ワインが僕に…精神と肉体、その矛盾をコントロールすることを可能にしてくれるのです。このタンニン、この渋みが境界線を認識させ…〉なんて、グラス片手に語り始めたら―?? もしくは美術館ならぬ、妖しさ満点・なんちゃら健康館の手書きPOP〈特殊製法で精神と肉体、その矛盾のコントロールが可能に!磁気ネックレス。今ならなんと9800円!!〉

 それが〈男〉だったり、〈商品〉だと、みんなもっと辛辣じゃない?胡散臭いって通り過ぎるでしょ。なのに、なぜこと〈アート〉と名がついた途端、簡単にありがたがるのかしら…。

 でも。なんだかこうして分析していくと…不思議ね。哀れにもなってくる。一生懸命、うんうん唸って、選んだことばかもしれないじゃない? 絞っても絞っても何にも出てこなくて…一番虚しいのは本人なのかも。(←ある意味、もっと失礼!だけど一人しょぼんと佇んでる、胡散臭い40男を想像したら、ね?)う~ん…ごめん、悪かった。ちょっといい過ぎました!!って、少し謙虚さを取り戻しかけたところで、総白髪のすてきなマダムがシャキ~ン! 私の目を覚ませてくれたのよ!

 それというのも、ミュージアム内にちいさな小屋がしつらえてあってね。せいぜい3~4人くらいしか入れないだろう〈小屋〉の中には、何でも特別なアートが展示されているらしく、ひと目見よう、体験しようと小屋の前は中々の人だかり。私とローランは顔を見合わせ、ひと言〈パス〉。すたすた次の展示室へと歩いていたら、ちょうど〈小屋〉から出てきたマダムとすれ違ったの。小柄なからだにシルクのスカーフをふわり纏った、お洒落なマダム。真っ赤な唇をゆがめ、こう吐き捨て去ってったわ。

「アホちゃう…!?」


追伸:

 この日記を書きながら、思い出しました。むかしむかし、知人に映画「ミス・ポター」に誘われました。ピーターラビットの生みの親、作家で画家のポター嬢の伝記。当時としては珍しく職業婦人だったポター嬢。環境保全のため、売り上げで湖水地方の土地を買い占め、死後はナショナル・トラストへ寄付するような素敵な女性だったよう。当日、映画館へ向かいながら知人がいう。〈彼女に関する記事を読んでね、すごくあなたっぽいと思って…!〉え、何々?うふふ。〈それがね、彼女の日記の一節なんだけど…、ある有名画家の絵を観に行った日の日記にね。゛たとえ子供や路上の落書きだろうが自分にとって魅力的なら、私はいくらでもよろこんで祝福するし、場合によっては購入することだって厭わない。しかし、あの〇〇(有名画家)のくだらない絵には1セントたりとも払う気はない!!゛って、そりゃあしつこく書いてあったらしいのよ…〉激しく共感、ミス・ポター!!


2コメント

  • 1000 / 1000

  • Mio

    2018.08.27 14:40

    よかった!!!共感してくれて!!!そうなのよね~~~!彼らの手法で戦うとこっちが負けちゃうのよ!(笑)
  • 日々の音

    2018.08.27 12:01

    激しく共感(笑) そーなのよ!もっと単純に楽しめばいいのにーーー。 と言うと、「単純とは…うんちゃらかんちゃら」とはじまるわよね。